スクーター(NMAX125)のトルクカムがまた壊れてしまった。なんで?原因を推測してみた。
投稿日: 2026年1月14日
日々の通勤において不可欠な機動力となっている私のNMAXですが、約3ヶ月ほど前から
駆動系に微細な違和感、いわゆる「異音」を知覚し始めました。
当初は聴覚的な錯覚かとも思われましたが、事態は日を追うごとに深刻化。
やがてその異音は増幅し、さらには不快な振動がシートを介して臀部へとダイレクトに伝播する、
看過できない状況へと至ったのです。
加速性能は著しく減退し、現状では変速機構が正常に機能せず、
常にローギアに固定されたかのような高回転・低車速の状態を余儀なくされています。
ここ1週間ほどは、最高速も時速50km程度で頭打ちという惨状。
後続のドライバー諸兄には多大なる不便を強いていることと推察しますが、
生活の足としての職責を全うするため、騙し騙し運用を継続せざるを得ませんでした。
長年の経験から、この徴候が駆動系の致命的な不具合に起因するものであること
は想像に難くありません。
そこで、2ヶ月前の応急処置を経て、今回抜本的な分解修理を行いました。
駆動系のメンテ・修理の履歴(整備記録簿)
個体詳細:YAMAHA NMAX125
2016年式(SE86J型) 登録型式(2DS2)
駆動系における保守・換装履歴
● ハイスピードプーリー(武川)/ Vベルト交換 23,200km(2020/07/20)
● 155cc ボアアップ換装 34,637km(2021/12/09)
● クラッチアセンブリ交換 44,117km(2023/01/24)
● クラッチアセンブリ(純正回帰) 51,277km(2024/02/17)
● 現在累計走行距離:62,014km
クランクケースカバーを外した瞬間、内部から大量の酸化鉄と思われる
「錆の微粒子」が飛散しました。この赤褐色の粉末はドライブベルトの表面にも
広範囲に付着しており、これが摩擦係数の変動や異常摩耗を誘発する一因となっている
可能性を否定できません。不具合の根源を特定すべく、ケースを外した状態でエンジンを
始動し、動的な診断を実施しました。
結果、打音(カタカタ音)の発生源はプライマリ側のプーリーではなく、
セカンダリ側のクラッチユニットに集約されていることが判明。
さらに、回転中のVベルトは周期的なバタつきを見せ、挙動が著しく不安定です。
スロットルを開度させると、プライマリプーリーはベルトを狭窄すべく可動していますが、
セカンダリ側での変速が追従せず、ベルトが外径方向へ遷移しません。
すなわち、変速比が固定された「ローギア拘束状態」であることが実証されました。
続いて、クラッチアウターの取り外しました。
アウターを脱着したところ、内部から粒子状の錆が堆積物として零れ落ちました。
トルクカムの背面にも、この不気味な焦茶色の粉末が広範に沈着しています。
これは通常摩耗の範疇を明らかに超越した異常事態です。
一旦、パーツクリーナーを用いてこれらの汚染物質を徹底的に洗浄・除去しました。
このクレンジング処置により機能が回復する淡い期待を抱き、再度アセンブリを構築して
試運転を試みましたが、無情にもカタカタという打音はより鮮明に。
そして、ついに決定的な「故障の証跡」を露呈することとなりました。
スプリングシートの損壊を確認。
金属疲労か、あるいは想定外の応力によるものか、明確な穿孔(穴)が生じています。
やはり元凶はトルクカムの機能不全でした。
詳細な検証のためユニットの解体が必要ですが、クラッチのセンターナットを解脱する
ための特殊工具を保持していなかったため、急遽バイクショップにて
39mmの超大型ソケットレンチを調達しました。
セカンダリユニット(クラッチ側)の検証
セカンダリプーリー分解工程
1. センターナット緩解時、内部のスプリングによる反発力でパーツが飛散する危険性があるため、
細心の注意を払います。レンチにハンマーで衝撃を与えるショック療法を併用し、
段階的に緩めていきます。
2. スプリングシートの脱着については、重度の固着が見られたため、
基部にマイナスドライバーを挿入し、テコの原理を用いて微動させました。
その後、内部のオイルシールを損傷(噛み込み)させぬよう、軸方向に回転を加えながら
慎重に引き抜きます。
3. トルクカムの溝に配置されているピンを、ラジオペンチを用いて垂直に抜去します。
分解後の惨状は想像を絶するものでした。
トルクカムのピンがスプリングシートを物理的に貫通し、先端が外部へ突出していたのです。
この突出部がスプリングと干渉していたため、分解作業に多大な難儀を要したわけです。
本来封入されているべき潤滑グリスは完全に消失し、金属同士の直接接触による摩擦熱と
磨耗が進行。結果としてスプリングシートは固着し、
トルクカムとしての動的な役割は完全に消失、機能停止に陥っていました。
トルクカム損壊の因果関係に関する理論的推察
まず、今回全損したトルクカムの運用履歴を整理します。
この純正トルクカムは2024年2月7日に装着したもので、当時の走行距離51,277km。
すなわち、わずか10,737kmの運用期間で致命的な損壊に至った計算になります。
参考までに、当時の換装記録を以下に記します。
さらに遡及すると、
2023年1月24日に、消耗品の更新としてKN企画 クラッチアッセンブリー【補修タイプ】を
採用しました。しかし、この社外品トルクカムも早期に破損し、純正へと回帰。
その際の耐久寿命はわずか7,160kmでした。
これほど頻繁にトルクカムが破綻する事象に対し、専門業者やメーカーへも照会を試みましたが、
明確な回答は得られませんでした。
そこで改めて状況を整理した結果、ある共通項が浮かび上がりました。
ボアアップによる出力向上以降、トルクカムの損壊が頻発しているのです。
損壊態様の比較検証
【第1回故障】
社外品の品質も一考の余地はありますが、それ以上に設計限界を超越した過大なトルクが
印加され、構造的耐久性が担保できなくなったものと推察されます。
密閉されたクランクケース内部において、これほどの破壊エネルギーをもたらすのは
エンジン出力以外に考えられません。
【第2回故障(今回)】
ボディブローのように蓄積された過負荷が、最終的にピンを外方へと押し出し、
スプリングシートを貫通。これにより変速制御という本来の責務を放棄するに至りました。
考察:「設計想定外のセッティング」が損壊を誘発したのか?
すなわち、ボアアップによるトルク増大と、プーリー設定の不整合が負の相乗効果を
生んだのではないか?
初回故障時のセットアップ:
ボアアップ 155cc換装 / ウエイトローラー8g(LEVEL10) / ボスワッシャー4枚
※155cc純正仕様はWR13g、ボスワッシャー非採用。125cc時代の過激な加速重視設定のまま
排気量のみを拡大していました。
【ちょっとした豆知識】スクーター変速設定の力学
- 排気量による設定差異: NMAX125は年式により10g前後のWRを採用しますが、155は増大したトルクを有効活用すべく、13gという重めの設定で低回転域からのスムーズな遷移を企図しています。
- セッティングの力学的傾向:
- 軽量化(例: 11g〜12g): 高回転域を多用し鋭敏な加速を実現しますが、燃費悪化やエンジンへの熱負荷、駆動系パーツへの応力が増大します。
- 重量化(例: 14g〜15g): 最高速の伸長や静粛性の向上に寄与しますが、加速特性は緩慢(マイルド)な傾向となります。
今回の再破損時のセットアップ:
ウエイトローラー10g(ドクタープーリー) / ボスワッシャー4枚
排気量拡大に伴いWRを2g増量しましたが、依然として125ccベースの「高負荷設定」
であったことは否めません。
結論として、高出力化したエンジンに対し、変速の「落とし込み」を強調しすぎた設定が、
トルクカムピンへの過渡的なせん断荷重を増大させ、今回の破綻を招いたという仮説
が最も有力です。
本推察に基づき、恒久的な対策として以下の部品を調達・換装いたしました。
・トルクカム一式
・ウエイトローラー(11g)への再調整
また、異常摩耗の温床となりかねないボスワッシャーの使用を撤廃し、適正なベルトラインの
確保に努めました。
既に換装作業は完了しており、その詳細なプロセスについては、次回の記事にて詳述する予定。
しまい













